アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

自宅待機は重厚長大なアドベンチャーゲームで乗り切ろう!長編ADV4選!

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アドベンチャーゲームの弱点。

それは、ゲームから離れた時間が長くなればなるほどストーリーを忘れてしまい、再開しようとしなくなってしまうこと。

自宅にいることが多い昨今こそ、敬遠していた作品を楽しむチャンスなのではないでしょうか!?ということで、私自身が実際にプレイして時間のかかった作品(20時間オーバー)のうち、積みゲーにすることなく走り抜けてほしいものをいくつか紹介します。

 

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Chaos;Child

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 『Chaos;Child』(カオスチャイルド)は、『Steins;Gate』(シュタインズ・ゲート)を擁する「科学アドベンチャー」シリーズ第4弾となる作品。2015年の渋谷を舞台に発生する連続猟奇殺人を追う、碧朋学園新聞部部長・「宮代拓留」を主人公に、幼馴染の「尾上世莉架」や悪友の「伊藤真二」、副部長にしてかつてひとつ屋根の下で暮らした「来栖乃々」らがこの連続殺人に追われ巻き込まれていくさまを描く。

 本作の魅力は、忍び寄る恐怖。好奇心が強く、当事者でありたいとする拓留が興味本位で調べ始めた一連の事件。最初は渋谷の片隅で起きただけのものが、学園に、そして拓留の周囲へと徐々に迫ってくる様子はまさに、得体の知れない闇が自身の逃げ場をじわじわとなくしていくよう。

 更に、テーマとして存在するであろう家族愛にも注目。2009年に作中の渋谷で発生した巨大地震によって孤児となった拓留は乃々に拾われ、同じ孤児が身を寄せる青葉寮という小さな診療所に住むことになる。父親がわりの存在である院長に、自身を兄と慕う幼い姉弟、そして世話を焼く乃々―――口には出さないものの、拓留にとって青葉寮で過ごした日々はかけがえのないもの。その想い出が、現在が、拓留が連続殺人を追うことでどう変容してしまうのか、目を離せない。

 「科学アドベンチャー」シリーズ第4弾と紹介したが、過去作をプレイしていなくても問題は無い。但し、シリーズ第1弾である『Chaos;Head』の続編となっているので、プレイ環境を持っている場合はこちらから連続してプレイすることをオススメする。『Chaos;Child』から入ったらわからないことばかり...のような内容にはなっていないので、そこは安心していただきたい

 『Chaos;Child』の対応ハードは XboxONE / PS4 / PS3 / PSV / PC / Steam / iOS / Android だが、家庭用ゲーム機版とSteam版は18歳以上のみ対象、モバイル版も高めのレーティングが設定されているので注意。セクシャル要素があるのではなく、残酷な描写があるためだ。ちなみに、後日談を描くファンディスク『Chaos;Child らぶchu☆chu!!』は PS4 / PSV のみとなっている。

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ROOT DOUBLE -Before Crime * After Days-

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  『ROOT DOUBLE』(ルートダブル)は、2012年にXbox360で発売されたSFサスペンスADV。『Ever17』等で知られる中澤工氏が原案・監督とプロデューサーを務め、氏が感銘を受けた要素や長らくあたためてきた表現がふんだんに盛り込まれている。2030年9月、鹿鳴市郊外のラボで事故が発生し閉じ込められた男女9人。閉鎖空間で発生する殺人事件、放射能で汚染されゆくラボ内、潰えていく逃げ道。2人の主人公の思惑を重ね、絶望的な状況からの脱出を目指す。

 本作には2人の主人公レスキュー隊隊長の笠鷺渡瀬(かささぎ・わたせ)と、高校生の天川夏彦(てんかわ・なつひこ)がおり、それぞれの視点から物語を進めていくのだが、単純なマルチサイトのアドベンチャーゲームではない。渡瀬の視点では事故発生後を描き、夏彦編では事故に至るまでの6日間を追体験するものとなっており、現在と過去を見ることで未来へと繋げていくストーリーテリングが行われる。

 しかし、単純に両サイドの物語を見ただけでは繋がらないのが面白いところ。渡瀬視点救助活動中に記憶を失ってしまったところから始まるため過去を持たず夏彦視点では脱出のために奔走する最中に過去へ意識が飛ばされてしまったところから物語が展開されるため現在を持っていないのだ。この2人をうまく「繋げる」のが面白い。また、マルチサイトADVのように両視点を見れば出来事の裏や理由はわかるのだが、それは「その人物の視点における真実」にすぎず、更なる真実が隠されている...という裏切りが多用されており、重厚さが増している。

 本作は選択肢が存在しないかわりに独自のシステム「Senses Sympathy System」が採用されている。これは9人の登場人物をエニアグラムのそれぞれのタイプに当てはめ、その人物への共感度を操作するというもの。ある場面での会話を経て、その人物を信用する・賛成する場合は多く振り分け、逆に否定したい場合は値を減らしていくといった具合だ。物語の重要な分岐点では警告色で表示されるので、慎重に選択したい。「共感」というのは本作のひとつの鍵となっているので、シナリオと融合した意欲的なシステムだ。なおこのシステムは後述する「Smart Edition」では通常の選択肢に置き換えられている。

 Xbox360が初出だが、Windows版も存在する。また、新要素を追加した『ROOT DOUBLE -Before Crime * After Days- Xtend edition』がPS3とPSV(ダウンロード専売)向けに発売された。モバイル向けには2017年に「Xtend edition」をベースに『ROOT DOUBLE -Before Crime * After Days- Smart Edition』としてリリースされ、通常のADVのような選択肢で進行するように変更が加えられたほか、分岐も最小限とし本筋のストーリーにより集中出来るつくりとなった。

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Memories Off -Innocent Fille-

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 『Memories Off -Innocent Fille-』(メモリーズオフ イノサンフィーユ)は、1999年に第1作が発売され20年以上続いてきた恋愛アドベンチャー『Memories Off』シリーズの第8作にして最終作。シリーズを通して大切にされてきた「かけがえのない想い」を更に発展させた、シリーズで最も昂ぶる作品になっている。湘南海陵高校に、交換留学制度を用いて北海道から一時転入をした楠瀬累(くすのせ・かさね)。共に幼少時代を過ごした三城莉一と柚莉の兄妹と7年ぶりの再開を果たすも、累が湘南にやってきてしまったことで運命の歯車が回りだしてしまい―

 本作の物語は「ライトサイド」「ヘヴィサイド」の大きく2つに分けられている。これまでの『Memories Off』シリーズで描いてきたものの明るめの要素を「ライトサイド」では更に強め、サスペンス的な暗い影のある部分をより重たくしたものが「ヘヴィサイド」になる。

 簡単に言えばギャルゲーチックなのが「ライトサイド」で、シリアスなADVになるのが「ヘヴィサイド」なのだが、どのルートでも「かけがえのない想い」というテーマが一貫しており、『Memories Off』の世界観を充分に堪能できるものとなっている。ちなみに「ライトサイド」がギャルゲーっぽいと書いたが、普通のギャルゲーを想像していると痛い目に遭う。ヒロインの嘉神川ノエルをいじめるグループに所属しているのだが、学外では彼女と仲良くしている志摩寿奈桜ちゃんの立ち位置なんて、普通のギャルゲーではまず描けない。

 特徴的なシステムとして『R.A.I.N.s』と呼ばれる時間制限のある選択肢が存在する。これは、「どちらか片方を選ぶ」というよりは「選ばなかったほうを明確に見捨てる」色合いが濃い選択となっており、キャラクターとの関係性に大きな影響を与える。選びたくなくても選ばなければいけない...両方を選ぶだなんて都合のよい話は存在しない...そんな残酷な選択が累に突きつけられる。

 シリーズ第8作ではあるが、本作からプレイしても何の問題もない。舞台設定が共通しているのと、過去作のヒロインが登場するのだが、知らないからといってスッキリしないということは無いので安心してほしい。対応ハードは PS4 / PSV / Switch / PC / Steam となっており、ファンディスクである『Memories Off -Innocent Fille- for Dearest』も同一ラインナップで発売されている。

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シンソウノイズ 受信探偵の事件簿

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 『シンソウノイズ 受信探偵の事件簿』は2019年2月発売の推理モノのアドベンチャーゲーム。前3作に比べればややお手軽ではあるが、内容を忘れることの危険度が他ジャンルよりも高いミステリ系から1作選出。当ブログで「2019年ベストゲーム」と評している本作は、本格的なミステリに青春のすれ違いや想いを乗せた物語と、ゲームとしての高い完成度を誇るマストバイな作品。他人の心の声を聞き取ることが出来てしまう「受信能力」を発現してしまったことからコミュニケーションが苦手な主人公・橘一真(たちばな・かずま)が、その受信能力もヒントに事件を解決していく。

 まずは本格ミステリという部分に焦点を当てて紹介する。多くの作品では、事件発生後の言動や証拠集めから犯人を特定し追い詰める手法が用いられるが、本作では発生前から丁寧に伏線が張られており、何気ないワンシーンが犯人にとって致命的な証拠として現れる。細部までじっくり観察する能力が求められる本作はまさに探偵のロールプレイングとでも言うべき内容になっており、シーンの積み重ねにスポットを当てて展開するアドベンチャーゲームとして完成度が高い

 メインの登場人物は、一真の通う学園で行動を共にすることとなったグループのメンバー。学生で青春真っ只中な彼ら・彼女らは、実に青臭い...だが青いながら本気な想いを抱き、その葛藤に苦しむ。短いながらヒロインとの個別エピソードもあるのだが、彼女たちは、一真が単に事件を解決するかっこいい探偵と映って好きになったわけではないし、一真の大切な人との間に入って良いのかも思い悩む、実に見事に青春が描かれている。

 その一真の大切な人というのが、序盤で転落死してしまうクラスメイト。彼女は学校の屋上で、そこから飛び降り自殺するイメージを頻繁に思い描いており、それを止めた一真と秘密を共有した、特別な仲となる。しかしその彼女は転落死、その場に急行した同じグループのメンバーの誰かの心から聞こえた「私が、殺した―」という声。あまりにも彼女自身のイメージと違った形での死と、現場で聞いた声から一真はこれが他殺ではないかと疑問を抱き、それがストーリー中最大の謎として横たわり続けるこの真実も、他の事件と同様に...いや、それ以上に細かく伏線が張られている驚きのものとなっている。

 どこまでも注意深く観察する探偵としてのロールプレイと、表現の積み重ねを一本に繋ぐゲームとしての完成度の高さ。『シンソウノイズ』は PS4 でプレイ可能なので、ゲームとしてのADVに感動したいプレイヤーは要チェックだ!(それ以外の方もぜひ遊んでみてね!)

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