『シュタゲ』
この単語を一度でも聞いたことがあるという方は多いと思う。2011年に放映されたテレビアニメで、2018年にはその続編がアニメとして放送された。
しかし『シュタゲ』…『Steins;Gate』はゲームを原作とする作品であり、ゲームは「科学アドベンチャーシリーズ」と呼ばれるシリーズ作品のうちの1つだ。
シリーズ本編はこれまで4作発売されており、スピンオフを含めると10本を越える、アドベンチャーゲームとしては中々の大所帯。そんな「科学アドベンチャーシリーズ」(科学ADV)の入門記事として、シリーズの作品を紹介!
はじめに
「科学アドベンチャー」とは「99%の科学と1%のファンタジー」をコンセプトに構成される物語。作中の現象・魔法や超能力的なものは、科学的な根拠を持っているものに僅かな嘘や夢をスパイスとして加えて作り上げられている。特殊な能力を持つキャラクターが登場する作品はいくつもあれど、本シリーズほどリアリティのあるものは中々ない。
例えば、シリーズ1作めの『Choas;Head』では「妄想を具現化」することの出来る能力者が登場する。その理論は簡単に言うと、人間の目の死角・デッドスポット(名前はともかく実際ある現象)に自身の妄想を送り込むことで思考を実体化・共通認識化させる(ファンタジー)というものだ。
また、主人公が男性であり、その周囲に多くの女性が登場するのだが、シリーズの本編は恋愛ADV・ギャルゲーではない。あくまで彼女たちは仲間・運命共同体であるし、その中に男性が混ざっている作品も存在する。
但し、「愛」を以て下す究極的な選択を突きつけられる場面などはあり、ルートによっては恋仲となることもある。
そして本シリーズは基本的に同一の世界での物語のため、ゲーム間で若干の繋がりも存在する。
Chaos;Head(カオスヘッド)
科学ADV第一弾として2008年にPC向けに発売され、家庭用ゲーム機での初出は2009年に Xbox 360 であった。
本作は CERO:Z (18歳未満購入禁止)の指定を受けている作品で、原因は女の子が出てくるからエロ…ではなく、血やグロ表現がその理由。
ハードの展開は Xbox360 / PSP / PS3 / PSV で、 Xbox 360 と PSV が CERO:Z 指定。その他は表現が抑えられて CERO:D 指定。iOS / Android 版もこれに準じている。
耐性が無い場合は D 指定のものでプレイすることをオススメするが、そもそも大量の血や凄惨な殺人の描写などが含まれるため、苦手な方は充分注意してほしい。
2009年、渋谷。世間は今、とある連続猟奇殺人事件に沸いていた。
通称「ニュージェネレーションの狂気」と呼ばれるそれは、遺体をありえない形に毀損するなど、前代未聞のものであった。
主人公・西條拓巳(にしじょう・-)は、引きこもりの高校2年。ある日いつものネトゲ友人とチャットをしていたところ、別の何者かが次の猟奇殺人を予告するような画像を送付される。
翌日拓巳はその場面に遭遇してしまうと同時に、血まみれで立っている、同じ学校の制服を来た女の子と出会う。彼女が殺したんだ…そう思って逃げ出した拓巳の元に後日、その女の子が現れる。
自分は彼女のことを知らない。でも彼女は拓巳の名前を呼ぶ。
彼女はクラスメイトだと言う。拓巳の友人もそう証言するが、拓巳自身にそんな記憶は無い。
剣を持つ少女、事件を予言する歌、ストーキング女、喋らない転校生、繰り返される猟奇殺人。引きこもっていたかった日常は徐々に壊されていく―
『Chaos;Head』の魅力は、日常が 次々に破壊され、世界が敵になっていくという「心」にダメージを与えてくる物語。元々本作は制作元の 5pb. が『Memories Off』シリーズの権利を入手できなかったために、会社の存続を賭けて制作された一本であり、のちの作品と比べて尖っている部分が多い。
例えば「ニュージェネレーションの狂気」の残忍さ。詳しくは言及しませんが、私は第5の事件の話だけは本当に苦手、無理、これが人間の思いつくことなのかよ!といった内容。
例えば楠優愛というキャラクター。彼女は「ニュージェネレーションの狂気」に所以のある人物で、その実行犯と目星をつけた拓巳に甘い顔をして詰め寄り、異常な行動力であっという間に豹変して証拠を叩きつける。こいつだけは許さねえ!
例えば最終盤の戦い。メインキャラが肉塊レベルまで粉々になってしまうゲームが他にあるか?
と、かなり刺々しく、強烈な印象を与える作品であることは間違いない。
科学要素としては、前述の「妄想の具現化」など「その目に見えるもの」に焦点が当てられており、後の作品に登場するヴィクトル・コンドリア大学が盲目の人々へ電気信号を視神経にアクセスする特許を取った、なんて話も出てくる。科学に論を求める作風はこの段階で確立しているのだ。
本作は「妄想科学ADV」と題されており、「思春期のエログロな妄想」がテーマ。引きこもりでオタクな拓巳は妄想癖があり、様々な場面でポジティブな妄想をするか、ネガティブな妄想をするかという選択を求められます。
例えば、彼の飲みかけのコーラを妹の七海が飲んでしまうという場面。
左はポジティブ妄想で、なにやら気がある様子。反対に右はネガティブ妄想で、七海が毒で死んでしまう。
そんなエロ&グロな妄想をする誇大妄想家としても楽しめる一作。
Chaos;Head らぶ chu☆chu!
『Chaos;Head』のスピンオフ。「妄想爆裂ADV」というジャンルで、思春期のエロ&エロな妄想をやり放題炸裂させる作品で、頽廃的な『Chaos;Head』とは対照的に季節は夏、ヒロイン達の好感度はMAXという恋愛アドベンチャーに仕上がっている。
本編を終えたあとのご褒美として、ラブでちゅっちゅなリア充ライフを満喫しよう!
Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)
科学ADV第二弾として2009年に登場した『Steins;Gate』。テレビアニメ、映画、小説、舞台など様々なメディアミックス展開が行われ、一気にドル箱へとなりあがった作品。
2010年、秋葉原。
主人公・岡部倫太郎は、秋葉原の一角でヘンテコな発明サークル「未来ガジェット研究所」を主宰する学生で、学友の橋田至・幼馴染の椎名まゆりとともに日夜発明に勤しんでいた。今回の発明品は、携帯電話を用い電子レンジを遠隔で操作出来るものだった。
ある日、秋葉原で色物研究者によるタイムマシン理論の発表会が開かれることを聞き、そこに向かう岡部とまゆりだが、それはかつてジョン・タイターが提唱したものであった。それを声高に指摘した岡部の元に少女が現れ、彼を外へ連れ出す。
彼女の名前は牧瀬紅莉栖(まきせ・くりす)。弱冠17歳にして有名雑誌に論文が掲載される天才。岡部は紅莉栖に「さっきは何の用があったのか」を問うも、岡部は彼女と会った記憶は無い。
その場をやり過ごした岡部は、いなくなっていたまゆりを探す。合流した直後、男の悲鳴が聞こえた。そこに向かった岡部は血溜まりに倒れている紅莉栖を目撃し、橋田に「牧瀬紅莉栖が殺された」とメールを送る。
次の瞬間岡部が立っていたのは、無人の秋葉原だった。
タイムマシン発表会は中止になったと言うし、岡部以外誰一人ジョン・タイターを知らない。
しかもあの日送ったメールは、橋田の元にはそれ以前のタイムスタンプで届いていた。
後日、大学の特別講義に向かった岡部達が見たのは、生きている牧瀬紅莉栖だった―
科学的論拠を以てタイムマシンを扱う物語。偶然作り上げてしまったそれを巡る悲劇と清算と愛、そのどれもが一級品と言える作品。
電子レンジの実験中にメールを送ってしまったことで、どういうわけか過去にメールを送ることが出来てしまった。その再現性や効力というもの、科学者ならばやはり実験をして証明したいもの。宝くじの番号を送信するも現在は変化せず、岡部は友人達に依頼し過去へ願いを送信させた。
しかし、死んだはずの牧瀬紅莉栖が生きているこの世界は、正しいものではなかった(ネタバレ回避)。岡部は、協力させた友人達が、変えたかった過去を改変し幸せに過ごしているその時間を、その想いを、自身の手で踏みにじり世界を元に戻していく。実験大好きっ子で、世界を変えたと思った絶頂からどん底に落とされ、互いに辛い想いをしながら1つずつやり直していくその姿は、青く深い後悔の念が感じられる。
ゲームでは、過去を変えるために送信するメールは全てプレイヤーのボタン操作で行われ、より「自身の手でやってしまった」と、たった数回ボタンを押すだけで感じさせられる。(もちろんゲームとして、送信を行わないことも出来る)これがアドベンチャーゲームの「選択」というものだ。
本作は「フォーントリガー」と呼ばれる、作中の携帯電話の使用によって分岐が行われるシステムが採用されている。受信するメールにどう返信をするか、着信に出るか無視するかといったことがキーとなる。面白いのはメールも着信も時限式であること。メールは瞬時に返信しなくても良いが、作中で時間が経ちすぎると返信が出来なくなってしまうし、着信も台詞を送ったら切れてしまい宛ら本物のコミュニケーションのよう。
また、メールの着信音・電話の着メロ・壁紙を変更出来るのも芸が細かい。スマートフォンの時代になり廃れてしまったかもしれない文化だが、ゲーム上で追体験してみるのも面白いかもしれない。
Xbox 360 が初出で、PSP / PS3 / PSV と iOS / Android に移植されている。最新ハードで遊ぶ場合は次項を参照。
Steins;Gate ELITE
原作のカットを全てテレビアニメのシーンに置き換え、「観る」ことに主眼をおいて作られた『Steins;Gate』。原作に存在しながらアニメでは該当する場面が無かった通称「無限サイクリング」などもアニメ化している。
原作ではいつでも取り出すことの出来た携帯電話・フォーントリガーは、場面の切り替わりで出現するだけのものに変わっており、携帯電話という感覚は薄れている。
ただ、『Steins;Gate』であることは変わらないため、原作の絵が良いかアニメ調のが良いかのお好みで購入するのが良いだろう。ハードは Nintendo Switch / PS4 / PSV 。
Steins;Gate 0(ゼロ)
正統続編として発売された本作は、『Steins;Gate』の最終盤から分岐した、「諦めてしまった世界の未来」を描く。この未来があったからこそ大団円にたどり着くことが出来たため、全くの無駄要素というわけではない。
新キャラも迎え失意の岡部が再起していく物語だが、冒頭から『Steins;Gate』のネタバレが含まれるため、本作から入る場合は要注意である。
なお、『Steins;Gate』のシリーズで世界の未来として描かれているのは、諦めてしまった未来である本作と、大団円の1年後である映画版だけ。後述の作品はパラレルワールドに過ぎない。
本作の初回特典として PS4 版『Steins;Gate』のDLコードが付属したため、一応前作も PS4 でプレイすることが可能とは言える。
前作のテレビアニメ版は個別キャラのエピソードもしっかり描いていたが、本作のテレビアニメ版はそれが無い。代わりにゲームで粗があった部分をきっちり補完した内容となっている。語られなかったエピソードが気になる場合はゲームも、大筋を復習する場合はアニメも、という風に各種媒体に触れるのが良いだろう。
Steins;Gate 比翼恋理のだーりん
「あったかもしれない、ラボメン達との物語」ということで、サークルのメンバーとの恋愛アドベンチャーゲームに仕上がっている。
Steins;Gate 線形拘束のフェノグラム
「ラボメンの数だけ物語がある」と題し、それぞれのキャラにスポットを当てた10の短編集。基本的にはパラレルワールドだが、牧瀬紅莉栖が生きている世界で起きたかもしれない物語も収録されている。
ゼロ、だーりん、フェノグラムの3作は Switch の『ダイバージェンシズアソート』1本で遊ぶことが出来るのでお得。
Steins;Gate 変移空間のオクテット
本作は往年のPCアドベンチャーゲーム風に仕上げた『Steins;Gate』である。8色のパレットが使われていたり、コマンド入力は英語だったりと、レトロPCにも造詣が深い、発売元 MAGES. 会長の志倉千代丸氏らしさが表れている。
家庭用ゲーム機には移植されていないのでご注意。
Robotics;Notes(ロボティクス・ノーツ)
※ゲームの公式サイトが続編に置き換わっていたのでアニメ公式を貼ります。
科学ADV第三弾は、これまでとは打って変わった青春モノ。「巨大ロボット」に夢を見る純粋な少年少女達が、世界を巻き込む陰謀を種子島から救う物語。メディアミックスもそれなりに行われたが、恐らくテレビアニメが最も有名かと思われる。
2019年、種子島。
中央種子島高校ロボ部は、実物大の「ガンヴァレル」というロボを制作する夢の半ばで廃部の危機を迎えていた。部長の瀬乃宮あき穂は、制作のための部の予算増額を求め今日も職員室に乗り込む。
そこで提示された条件は、ホビーロボットを競わせる大会・ROBO-ONEでの優勝。幼馴染で主人公・八汐海翔(やしお・かいと)に協力を仰ぐも、格闘ゲームで勝ったらいいよと相手にしてもらえない。ロボ部元部長のあき穂の姉の夢を絶えさせないために奔走するも、あき穂自身の身体が持たなくなってしまい、海翔も協力することに。
大会は準優勝に終わったが、優勝者も同じ高校の生徒と見抜いた海翔は、その生徒もロボ部だからと主張し部は巨大ロボ制作に取り掛かる。島のロボ専門家の孫娘や、転校してきた天才プログラマ少女、引いてはJAXA職員となった『Steins;Gate』の天王寺綯らの協力も得て制作する日々に。
時を同じくして海翔は、AR上にのみ存在する愛理(あいり)という少女、そして君島コウという人物による、ある陰謀の告発文を発見する―
この2019年の世界では、人々はポケコンと呼ばれるタブレット端末を持っており、電話もメールもSNSもこれ1つで済ませることが出来る。これにはポケコンのカメラを通してAR(拡張現実)を見ることが出来るアプリも備わっており、2020年現在から考えてもリアリティのある世界となっている。
作中のARは面白い使い方がされており、建物や人物に「ジオタグ」なる説明文を添付することが出来、見事に現実を拡張させている。
ポイントはやはり「青春感」。
ロボ部の活動に打ち込み努力をする姿は青春の1ページと言えるし、学生だからこそ出来て、だからこそ出来ないことがよく表れている。
また、幼馴染の男女の微妙な距離感、初々しい恋心を描いているのもシリーズの中では本作のみ。部長として突っ張り続けるあき穂と、彼女を大切に思いながらもいまひとつ進むことの出来ない海翔との関係性、青春ですね~。
とある場面で折れてしまったあき穂の心にどう対処するか…残酷な結末を与えるか甘やかすか…はテレビアニメでは描かれていない、事実上のバッドエンドを迎える結末も存在する。それもまた、青春のすれ違いと言える内容だ。
本作は「拡張科学ADV」を謳っており、ARが大きな鍵となっている他にも、現実の科学的な理論や予想などを拡張させて登場する要素がある。太陽嵐やモノポールなどがそれに当たる。SFの要素はあるものの、魔法のように自在に繰り出されるわけではないので世界観が壊れることはない。
ゲームは「ポケコントリガー」と呼ばれる、登場人物らが使うTwitterライクなSNSにどう反応するかで分岐する。メールの返信だった『Steins;Gate』からステップアップしている。また、このSNSには条件を満たすとシリーズ過去作の人物も一種のファンサービスとして登場する。これらはテレビアニメではカットされた要素なので、ゲームで遊んでみると新鮮かもしれない。
Xbox360 と PS3 で発売。最新ハードで遊ぶには次項を参照。
Robotics;Notes ELITE
PS Vita で発売された強化バージョン。
キャラの演出強化、アニメーションを挟むことでの情報の視覚化、ストーリーの整頓が行われている。
『Robotics;Notes DaSH』発売に合わせ、Nintendo Switch と PS4 に HD 移植されている。詳しくは後述。
Robotics;Notes DaSH
正統続編である本作は『Robotics;Notes』の結末の先を描く。高校を卒業した海翔は宇宙飛行士の夢を追いかけて鹿児島県本土で浪人生活、あき穂はやりたいことを模索しながらバイト生活。そこに『Steins;Gate』の橋田至がやってきて、もう一度種子島から世界を救う物語。
これまでのシリーズ作品ではファンディスクが発売されていたのだが、前作発売後約5年ほど全く動きが無かった『Robotics;Notes』系列待望の一作。
主人公は海翔ではなくなんと橋田至。彼の視点から描かれる『Robotics;Notes』の世界とは!?
本作は Nintendo Switch / PS4 向けソフトとして発売。前作の ELITE 版を同梱したお得パックも同時に発売されているので、同梱のものを買えば一気に『Robotics;Notes』の物語を楽しむことが出来る。
また、 ELITE 版はダウンロード専売ながら単体でも販売されているので、PS Vita 版を持っていない場合でも最新ハードでプレイ可能となった。
Chaos;Child(カオスチャイルド)
『Chaos;Child』は、シリーズ第一弾である『Chaos;Head』の続編。「妄想科学」である世界観を受け継ぎ、前作から6年後を描く。
2009年11月。後に渋谷地震と呼ばれる大規模な災害が発生した。
あれから6年、復興は急ピッチで進められ、ヒカリヲなどの新たな名所も生まれつつあった。主人公・宮代拓留らの通う碧朋学園もその中で新設された高校で、拓留は新聞部の部長として、校内や渋谷で発生する様々な事件を追っていた。
9月に入り、ストリーミング配信中の男性が、路上ライブ中の女性が凄惨な死を遂げる事件が発生した。残忍な手口が用いられているこの事件を、渋谷で発生したセンセーショナルなものとして新聞部は調査していた。そんな中拓留は、これらの事件には警察も気付いていない共通点があることを発見する。
それは、6年前に発生した「ニュージェネレーションの狂気」と、今回の事件の発生日が同じであるということだった。やがて第3の事件の日を迎え、拓留は偶然にもその事件を目の当たりにする。
やがて、日付の他にも更なる共通項を見つけた新聞部。情報強者を自称する拓留が追う事件は、大切なモノを失わせ―
プレイヤーによっては『Steins;Gate』を越えたとも言わしめる本作。その魅力は、徐々に心を蝕んでゆく恐怖と、プレイ後に必ず刺さるキャッチコピー、そして愛の形にある。
残虐な殺人事件が起き、部として調査を進めていく中で、大切な人にも危害が及び始める。自身の周囲に黒い影がひしひしと迫ってくる…そんな恐怖を体感出来る。連続殺人に関わってしまったことで主人公が追い詰められる、というのは前作『Chaos;Head』も同じであるが、前作は沢山ある退路を1つずつ瞬間的に絶たれる感覚。本作は真綿で首をじわじわと締め上げるように、徐々に徐々に道が狭まっていく展開となっている。追い詰められ、大切なモノを幾つも失って、嘆き悲しみ憤りという拓留の心が我々に伝わってくる。
本作のキャッチコピーは「―そして。僕は、このくそったれなゲームをクリアーした。」。これほど優れたキャッチコピーが他にあるだろうか。
一見すると何のことだかわからないこのコピーは、クリア後には必ず納得出来るものになる。そして、「くそったれなゲームだった…」と本作に最大級の賛辞を送るだろう。
『Steins;Gate』には純粋な愛があったが、本作で鍵となる愛は「これもまたひとつの愛の形だよね…」と言える悲痛な物。結末が幸せであるかは作中の人物にしかわからないが、少なくとも私から見ると「こんな哀しい愛はない」。本当に「くそったれなゲーム」ですよ、本作は。
前作に引き続き CERO:Z 指定で、理由も同様なのでプレイの際はご注意。但し今回は大量の血や残忍すぎる描写は無い。が、それでも精神的に来る描写(=心を蝕む恐怖)は健在である。
妄想トリガーもテンポを削がないよう改善されて搭載されており、再びあんなことやこんなことを妄想するプレイングも楽しめる。
本作で新たに登場したのは「マッピングトリガー」。刑事ドラマでよく見かける、事件をおさらいするために地図を用いて情報整理を行うというもの。
地図上に貼り付ける情報を選択するというもので、プレイヤー的にはストーリーの整理にもなるシステム。新聞部らしい方法でもあるし、「情報」にうるさい拓留の性格としても理に適っている。
『Chaos;Head』『Chaos;Child』は両方ともアニメ化されているが、『Steins;Gate』『Robotics;Notes』と違い1クールしか制作されなかったため、大部分が端折られてしまっていると聞く。後者の2作は、そもそも映像化しやすいストーリーやギミックの構成だったが、前者の2作はそうはいかない。そのため、もし興味がある場合はゲームをプレイすることを強くオススメする。
Xbox ONE が初出で PS4 / PS3 / PSV に移植された。iOS / Android 版もある。
『Steins;Gate 0』が発売初日で10万本を売り上げ、シリーズ累計では100万本を突破したのに対し、本作は Xbox ONE 版の初週売上が約1500本・移植版は合算で初週約25,000本だった(※『Robotics;Notes』よりも低い)。いわゆる「隠れた名作」とも言える作品になっているので、是非触れてみてほしい。
Chaos;Child らぶchu☆chu!!
『Chaos;Child』のスピンオフは、『Chaos;Head』と同様に妄想爆裂!何を思ったか CERO:D の中でもかなり攻め攻めな描写が盛りだくさんとなっている。
攻めすぎた結果、公式が YouTube にアップした本作のオープニングムービーは年齢確認のためにログインしないと再生出来ないという始末。
科学ADVシリーズの中では最も哀しい結末を迎える本編の反動としては妥当!?
以上、科学アドベンチャーシリーズ4作品を紹介した。『Chaos;~』系はゲームで遊ぶことをオススメするが、残り2作はゲームでもアニメでも問題無いだろう。アドベンチャーゲームとして見ても、本編はどれも出来の良い作品であるので安心して遊んでほしい。筆者は特に『Chaos;Child』をオススメする。
最後に関連作品にも軽く触れておく。
当初は「超常科学NVL」という枠組みであったが、現在は科学ADVシリーズに統合されている。都市伝説を扱った作品だが、ゲームは現行のものは不完全である(完全版発売が予告されている)。
科学ADV制作チームによる最新作で、発売日は未定。初出の際は SVN (Science Visual Novel) として科学ADVとは別物と公言されたが、こちらも統合されている。科学ADVとの関連要素の1つとして、本作の登場キャラが「『Steins;Gate』というゲームがあったことを知っている」世界観であるらしい。
Chaos;Head (C)2008-09 5pb./Nitroplus/RED FLAGSHIP
Steins;Gate (C)2009 5pb. Inc./Nitroplus
Robotics;Notes (C)MAGES./5pb./Nitroplus
Chaos;Child (C)2014-2015 MAGES./5pb./RED FLAGSHIP/Chiyo St. Inc. (C)2008 5pb./Nitroplus/RED FLAGSHIP